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東京高等裁判所 昭和42年(ネ)1442号 判決 1970年9月16日

主文

原判決を次のとおり変更する。

本訴につき

控訴人らの本訴請求を棄却する。

反訴につき

被控訴人の反訴請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審を通じて二分し、その一を被控訴人、その余を控訴人らの各負担とし、補助参加によつて生じた費用は第一、二審を通じて二分し、その一を補助参加人、その余を控訴人らの負担とする。

事実

控訴代理人は「原判決を取消す。被控訴人は控訴人保科、同倉持に対し別紙物件目録記載の建物について東京法務局台東出張所昭和三九年六月四日受付第一二、三九三号をもつて秋元利夫のためになされた所有権移転仮登記の本登記として所有権移転登記手続をせよ。被控訴人の反訴請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は「控訴棄却」の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張、証拠の提出、援用、認否は次に附加するほか原判決事実摘示と同一(但し証拠関係のうち、冒頭「引受参加人両名」とあるを「引受参加人保科、倉持両名」と改める)であるからここにこれを引用する。

控訴代理人において、「本件債権譲渡代金四五一万八五三二円は控訴人保科マリ子の父倉持勝雄が表示上は秋元利夫名義で昭和三九年五月二三日その内金四五〇万円を、同月二五日残金一万八、五三二円を訴外大東京信用組合田村町支店において現金で支払つた。」と述べ、被控訴人は右事実は否認すると述べた。

証拠(省略)

理由

一、別紙目録記載の建物(以下本件建物という)は保科工業株式会社(以下保科工業という)の所有であつたが、昭和三七年八月三一日訴外大東京信用組合(以下信用組合という)との間で、昭和三六年一月一〇日付当座貸越、手形割引、手形貸付契約等によつて現在負担し又は将来発生する一切の債務を担保する目的を以て、本件建物について、債権元本極度額を金七〇〇万円とする第一順位の根抵当権設定契約を締結すると共に、右会社が右債務の支払を怠つたときは右債務の支払に代えて右建物の所有権を信用組合に移転する旨の代物弁済の予約を締結し、昭和三七年一〇月一九日東京法務局台東出張所受付をもつて別紙登記目録六および一記載の根抵当権設定登記ならびに所有権移転仮登記がされたこと、その後保科工業は信用組合との当座貸越、手形割引、手形貸付契約を解除したことおよび昭和三九年六月四日受付をもつて右根抵当権、代物弁済予約上の権利が秋元利夫に移転した旨の別紙目録八および三記載の登記がされ、その後、右各権利は小野崎誠に移転した旨および控訴人らに移転した旨の別紙目録九、一〇、および四、五記載の登記がされていることはいずれも当事者間に争がない。

二、控訴人らは、信用組合は昭和三九年五月二三日保科工業に対する同日現在の残債権金四五一万八、五三二円と本件建物に対する根抵当権、代物弁済予約上の権利とを秋元利夫に譲渡したと主張するので判断する。

原審および当審証人井村次郎、原審証人日詰敏夫(一部)の各証言、当審における控訴人保科マリ子、同倉持靖雄各本人尋問の結果と右証人井村次郎の証言によつて真正に成立したものと認められる甲第一号証、成立に争のない甲第三号証原本の存在および成立について争のない乙第一号証の一、二、同第三ないし第八号証の各一、二(但し同第八号証の一のうち「孝一支払」欄外「三九、三、一二支払」の各記載部分を除く)、原審における被控訴人本人尋問の結果真正に成立したものと認められる乙第一一号証、成立に争のない甲第六号証の一ないし四、を総合すると、昭和三九年五月二三日現在において信用組合に対する保科工業の債務は貸付金と預金、出資金とを相殺した結果、残額金四五一万八、五三二円であつたこと、保科工業は同年一月手形不渡を出してから信用組合より度々債務を支払うよう催告をうけたが支払うことができなかつたため、担保物件である自分らの居住する本件建物の所有権が失はれることをおそれた控訴人保科マリ子は実父倉持勝雄に懇請して右債務を弁済すべく金五〇〇万円を融通してもらい、秋元利夫をして信用組合より保科工業に対する残債権を本件建物に対する根抵当権、代物弁済予約上の権利と共に譲り受けさせようと考え、右昭和三九年五月二三日、秋元利夫の代理人佐藤豊と共に信用金庫田村町支店に赴き貸付係日詰敏夫と折衝の結果、同信用金庫をして残債権額と同額の代金をもつて右債権とこれに附随する前記各権利を秋元に譲渡することを承諾させたが、その際委任状の不備の点があり当日は土曜日であつて時間の余裕がなく残債権の明確な計算ができなかつた為め、代金を一応金四五〇万円としてこれを支払つたこと、そして譲渡契約書の作成は委任状等が完備した後に行うこととし、翌々日五月二五日月曜日信用組合本店において右組合を代理する管理係長井村次郎と秋元利夫代理人佐藤豊との間で確定した残債権金四五一万八、五三二円と本件建物に対する根抵当権、代物弁済予約上の権利を信用組合から秋元利夫に譲渡する旨の契約書を作成し、不足代金一万八、五三二円が支払はれたものであつて、右譲渡は通謀虚偽表示でないことを認めることができる。右認定に抵触する原審証人日詰敏夫の証言部分、原審証人大木孝一の証言は措信することができず、成立に争のない乙第九号証に担保権に関する書類を保科マリ子が保科工業の代理人として受領した旨の記載(この記載の趣旨は、前顕井村次郎証人および保科マリ子本人とも不明であるとする。)があること、原本の存在および成立に争のない甲第二ないし第六号証の一、二によつては右認定を覆すに十分でないし、他に右認定に反する証拠はない。

三、右債権譲渡の通知が昭和三九年六月二二日保科工業代表者保科孝一に対してなされたことは当事者間に争がないが、右は当事者間に争のない保科工業に対する破産宣告決定のあつた昭和三九年五月二六日よりも後であつて保科工業の破産管財人たる被控訴人に対して通知されたものでないから、譲受人秋元利夫は被控訴人に対してその善意、悪意を問わず右債権譲渡を対抗できないものといわなければならない。それ故、秋元利夫のために本件建物につき前示所有権移転仮登記移転(登記目録三、)および根抵当権移転(同目録八、)の各付記登記がされていても、被担保債権の譲渡を対抗できない以上、右債権の担保のためになされた代物弁済予約上の権利および根抵当権がたとえ前認定の如く秋元利夫に譲渡された事実があつても同人においてこれら各権利を行使するに由ないものと解すべきである。控訴人らは右債権および代物弁済予約上の権利、根抵当権は前記秋元から小野崎誠に、同人から控訴人らに、順次譲渡されたと主張し、成立に争いのない乙第一二号証によりこれを推認できるが、秋元において前記被担保債権の譲受を以つて第三者に対抗できないこと右認定のとおりであるから他に特段の事由の認め難い本件において控訴人らもまたこれが担保のため設定された諸権利を行使できないことは秋元の場合と異らない。

以上の認定によれば控訴人らが、被控訴人に対し、本件建物について、東京法務局台東出張所昭和三九年六月四日受付第一二、三九三号をもつてなされた所有権移転仮登記の本登記手続を求める本訴請求は理由なく失当であるが、被控訴人の反訴請求もまた理由がなく失当である。けだし、訴外秋元利夫が訴外大東京信用組合から譲受けた本件債権を以て被控訴人に対抗することができず、これがため訴外秋元及びその特定承継人である訴外小野崎、控訴人ら両名がその順次譲受にかかる前記予約完結権、抵当権を行使できない状態にあることは前示のとおりであるが、これがため右各権利が当然消滅に帰したと断じ得べきものではないからである。(原審原告秋元利夫、原審引受参加人小野崎誠の本訴請求の当否については原判決は判断しておらず、右両名によつて一旦当裁判所に提起された控訴は取下げられたので、右各請求の当否は当裁判所において判断をしない。)

よつて、本件控訴は一部(反訴につき)理由ありと認め原判決を一部変更し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九六条、第九二条、第九三条、第九四条、第八九条を適用して主文のとおり判決する。

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